新しいキャリアへの挑戦は魅力的ですが、一方で退職金が減ってしまうのではないかと不安に感じる方も多いのではないでしょうか。退職金制度は企業によって異なり、転職のタイミングや方法によっても影響を受けます。転職を決断する前に、退職金についてしっかりと理解しておくことが大切です。

本記事では、退職金の4つの制度について解説するとともに、転職する際に知っておくべきポイントを解説します。

転職すると退職金はどうなる?

転職するにあたって、退職金がどうなるのか気になる方も多いでしょう。まずは、退職金について、以下の視点から見ていきます。

  • 退職金とは
  • 退職金の相場
  • 転職すると退職金は減る可能性もある

それぞれ詳しく解説します。

退職金とは

退職金とは、従業員が退職する際に会社から支払われるお金のことで、通常の給与や賞与とは別枠で支給されます。ただし、退職金制度の導入は会社によって異なり、制度がない会社では退職金は支払われず、制度が採用されていれば必ず支給されます。

退職金の金額は、勤続年数や基本給、役職などを基に算出されますが、具体的な計算方法は会社によってさまざまです。また、支給条件も会社ごとに異なり、自己都合での退職や解雇の場合でも、状況によっては支給されることがあります。

退職金の相場

厚生労働省の「令和5年就労条件総合調査」によると、勤続20年以上かつ45歳以上の退職者(大学卒)に対して支払った退職金の平均額は、以下のとおりです。

退職理由 平均支給額(万円)
定年退職 1,896
自己都合退職 1,441
早期優遇制度を利用した退職 2,266

定年退職の場合は1,896万円、自己都合退職では1,441万円となっています。定年退職の方が、自己都合退職よりも平均支給額が高いのは、長年の勤務に対する報酬という退職金の性質を反映しています。

一方、早期優遇制度を利用した退職の場合は、2,266万円と最も高い平均支給額となっています。早期優遇制度とは、早期退職を促進するために設けられた制度です。

このデータからも、退職金の金額は退職理由によって大きく左右されることがわかります。

転職すると退職金は減る可能性もある

退職金は勤続年数に応じて増加することが多いため、一つの企業で長く働けば働くほど、退職金の額は大きくなっていきます。

しかし転職すると、新しい会社で再び1年目からのスタートになるため、これまでの勤続年数はリセットされ、また1から積み重ねていかなければなりません。その結果、トータルでの退職金額は減ってしまう可能性が高いでしょう。

ただし、転職によって給与が大幅にアップした場合、給与増加分が退職金の減少分を上回れば、トータルでの受取額が増えることも十分にあり得ます。

退職金は4つの制度がある

退職金は4つの制度があります

  • 退職一時金制度
  • 退職金共済制度
  • 確定給付企業年金
  • 企業型確定拠出年金制度

それぞれ詳しく紹介します。

退職一時金制度

退職一時金制度は、最もオーソドックスな退職金制度です。会社が従業員のために積み立てたお金が、退職時にまとめて支払われます。多くの方が想像する退職金は、退職一時金制度

ことを指していることが多いでしょう。

ただし、支給される金額や時期は会社によって異なります。例えば、勤続年数に応じて退職金が増えていくケースもあれば、役職に応じて加算されるケースもあります。退職理由によっては、減額されたり、支給されなかったりすることもあるでしょう。従業員の立場としては、自社の退職金規程をしっかりと確認しておくことが大切です。

退職金共済制度

退職金共済制度は、主に中小企業で利用される退職金制度です。自社単独で退職金制度を運営するのが難しい場合に、外部の機関を通じて退職金を準備するための仕組みと言えます。

退職金共済制度の特徴は、会社が勤労者退職金共済機構などの外部機関に、毎月一定の掛け金を納付するところにあります。そして従業員が退職する際には、その外部機関から退職金が支払われるのです。

つまり、万が一会社が倒産して退職金を払えなくなったとしても、従業員は安心して退職金を受け取れます。会社の経営状況に左右されず、退職金が保証されるのがメリットです。

確定給付企業年金

確定給付企業年金は、現在日本で最も普及している退職金制度です。会社と従業員が事前に取り決めた年金額を、60歳以降に受け取れます。

確定給付企業年金では、会社が一括して年金資産を運用するため、運用リスクは会社が負うことになります。仮に運用実績が芳しくなく、年金原資が不足してしまった場合でも、会社が追加で拠出しなければなりません。従業員の立場からすれば、安定した老後の収入を確保できるメリットがあると言えるでしょう。

ただし、給付額は退職前の給与水準などによって決まり、同じ勤続年数でも高年収の人ほど有利になる傾向があります。

企業型確定拠出年金制度

企業型確定拠出年金制度(企業型DC)は、会社が掛け金を拠出し、従業員が自身で運用する新しい退職金制度です。

株式や投資信託など運用商品の選択肢が豊富で、転職時には資産を持ち運べるポータビリティが魅力的ですが、運用リスクは従業員自身が負うことになります。そのため、ある程度の投資知識が必要となるでしょう。

60歳以降に一時金または年金で受け取れ、税制面でも優遇措置が設けられています。自身のライフプランや投資に対する考え方をしっかりと見極めたうえで、加入を検討しましょう。

退職金には所得税控除がある

退職金を一時金として受け取ると、所得税の対象となりますが、税制上の優遇措置である「退職所得控除」を活用すれば、税負担を最小限に抑えられます。

退職所得控除額は、勤続年数に応じて以下のように計算されます。

・勤続年数が20年以下の場合:控除額 = 勤続年数 × 40万円(ただし、80万円を下回る場合は80万円)

・勤続年数が20年を超える場合:控除額 = (勤続年数 – 20年)× 70万円 + 800万円

具体例は以下のとおりです。

・勤続15年で退職金1,500万円を受け取る場合

控除額 = 15年 × 40万円 = 600万円

課税対象額 = 1,500万円 – 600万円 = 900万円

・勤続28年で退職金3,000万円を受け取る場合

控除額 = (28年 – 20年)× 70万円 + 800万円 = 1,360万円

課税対象額 = 3,000万円 – 1,360万円 = 1,640万円

ただし、退職所得控除を受けるには、退職所得申告書を会社に提出する必要があります。退職所得申告書を提出すれば、会社側で源泉徴収などの手続きをおこなってくれるため、個人で面倒な手続きをおこなう必要はありません。

転職を考える際に退職金について知っておくべきこと

転職を考える際には、退職金について以下の内容を理解しておきましょう。

  • 会社の退職金制度を調べておく
  • 転職しても積み立てを引き継げるか確認する
  • 退職金だけでなく合計所得を考える

それぞれ詳しく解説します。

会社の退職金制度を調べておく

転職を考える際、現在の勤務先の退職金制度について把握しておくことが重要です。退職金制度は企業によって大きく異なるため、事前に確認しておきましょう。

厚生労働省の「退職給付(一時金・年金)の支給実態」調査によると、退職給付制度があると答えた企業の割合は74.9%、ないと答えた企業は24.8%であることが判明しています。つまり、約4分の1の企業では退職金制度が導入されていないのです。

自身の勤務先が退職金制度を設けているかどうかは、就業規則や労働契約書の確認、人事部門への問い合わせなどの方法で確認できるはずです。

転職しても積み立てを引き継げるか確認する

転職する際、退職金の積み立てを引き継げるかどうかは重要なポイントです。企業型確定拠出年金(DC)や確定給付企業年金制度の場合、「ポータビリティ制度」を利用すると、転職先にも年金資産を持ち運べます。この制度を活用すれば、課税されずに資産の引き継ぎが可能になり、転職先でも継続して老後の資産形成を行えます。

一方、持ち運びせずに一時金として受け取ると、その時点で退職金が精算され、所得税が源泉徴収されるため、運用の継続はできません。

また、転職先の会社が企業年金制度を実施していない場合でも、個人型確定拠出年金制度(iDeCo)や企業年金連合会への移換という選択肢があります。iDeCoに移換すれば、自分で運用を続けられ、企業年金連合会に移換すれば、通算企業年金としての受け取りが可能です。

退職金だけでなく合計所得を考える

転職を検討する際、退職金の金額だけに目を向けるのではなく、新しい職場でのボーナスや給与、福利厚生などを含めた合計所得を総合的に判断しましょう。

退職金は魅力ではありますが、それだけで転職の是非を決めてしまうと、長期的に見て損をする可能性があります。例えば、退職金は多くても、新しい職場での給与が低いケースでは、トータルの収入が減ってしまうかもしれません。

また、社会保険の充実度や育児支援制度、教育訓練の機会など、福利厚生の内容も長期的なキャリア形成に影響を与えます。そのため、転職先を選ぶ際は、退職金だけでなく、あらゆる側面から総合的に判断しましょう。

転職をする前に退職金についても確認しておこう

転職を検討する際は、退職金制度の種類や内容を事前に確認し、自身のキャリアプランに合わせた選択を行うことが重要です。また、退職金だけでなく、給与やボーナス、福利厚生など、総合的な観点から転職先を判断しましょう。

転職を効率的に進めたい方は、ぜひHUGANを活用してみてください。HUGANは、若手の挑戦者に特化したスカウト型転職サイトで、20代、30代の転職希望者が自分の経験やスキルを活かして新しいキャリアに挑戦することを支援します。

企業は求職者に直接スカウトを送る形式で、未経験からのキャリアチェンジにも対応しています。